毎日、みんなで命について考えている。厚い雲の切れ間から西日が差して、セブンイレブンの駐車場がオレンジ色に照らされている。鼻と口だけじゃ酸素が足りない。この部屋にはTwitterしか窓がない。感染者の数字が増えるほどにリアリティは失われていくが、これがもし都内限定PayPayジャンボ毎日1万人当選キャンペーンだったら、めっちゃ当たりそうな気がする。わりと大きめの本屋の、世界の文学の棚に「ロシア」と書かれた札が刺さっている。ロシアにも詩人がいるんだよな〜と思う。中国の詩集は、文字は読めなくても装丁が美しいことはわかった。言われてうれしかったことを覚えておいて、タイミングが訪れたら誰かに言う。誘ってみる。声をかけてみる。あなたを必要だと伝える。話を聴いて、自分も話す。楽しかったことを覚えておく。それが命だと思うから。
線路沿いを気が済むまで歩いて、小田急線で帰る。酒も飲まずギャンブルもしない僕が独自に編み出した、片道の電車賃でできるストレス解消法。街は駅の単位で分割されているように見えるだけだし、あるいは命は日付の単位で分割されているように見えるだけだし、それとも国は国境の単位で分割されているように見えるだけで、実際はグラデーションが重なり合っている。Apple Watchがぶるぶる震えている。牛丼の並盛が多く感じる。命が試されている。人間なのか問われている。特別なことではないし、難しいことでもない。それぞれの場所で、人間として当然の判断をすることが求められている。ふつうが必要とされている。もっともっと働きたいし、もっともっともっと遊びたいから、生命保険に入ろうかな。
Amazonとヨドバシカメラの売れ筋ランキングを眺めつつ、乾電池で充電できるモバイルバッテリーとか、賞味期限が5年ある羊羹とか、アルミホイルみたいなポンチョとか、笛を購入。非常時に、僕は羊羹を食べようと思っている。避難所で、隣の人に羊羹を分けてあげられるだろうか。もし羊羹を分けてあげるシーンがやってきたら、何回か心のなかで羊羹を分ける練習をしてから渡すのだろうか。宅配便は、いろんな人たちの、さまざまな思いを運ぶ。そのなかにまぎれて、賞味期限が5年ある羊羹が僕の部屋に届く。グラスにいっぱいの氷が、飲み干した口に落ちてきて歯に当たる。時間の速度が二次曲線で加速していく。このまま時間が極限まで加速した結果、速すぎて止まって見えている状態が、いわゆる寿命なのではないか。
ぜんぜん別の場所にあるものが、重なって見える。いま起こっていることが、いつか体験したことのように感じられる。速すぎてよく見えないけど、出会った瞬間に別れている。それを繰り返している。からだの輪郭が高速に振動して、中と外が入れ替わっている。なんども死んでは、生まれ変わっている。それはそれとして、わたしたちはきょうも暮らしていかないとならないから、便宜上こんなことを命と呼んでやりすごしているわけなのだが。
性善説、全肯定、想像力。春の日差しが照らした水は、多摩川にはめずらしく透明で、川の底が見えた。アレクサ、黙祷して。
ZINE「パンのパン04(中)」のために書いた詩。2020年に書いた同じタイトルの詩とともに掲載された。
https://meta-pan.booth.pm/items/4938376