HTML

こんばんは。はじめまして、shikakunといいます。本日はHTML Night in Tokyoいう素敵なイベントにお誘いいただき、ありがとうございます。このイベントのconnpassのページの説明に、「ウェブ」が初めてインターネット上で公開されたのは1991年で、公開から今年で35年目を迎えます、ありますが、僕は1989年に生まれた37歳で、ウェブといっしょに生きてきた、というと大げさですが、ウェブの広がりや進化が、これまで自分が生きてきたタイムラインと重なるような感覚を持っています。

この場をお借りして個人的な話をすると、2024年からfreeeという会社でデザインシステムの開発や運用に携わる仕事をしていて、対外的に職業を説明するときは、ソフトウェアデザイナーとか、ウェブフロントエンドエンジニアと名乗っています。いまの会社で働く前には、大学を2012年に卒業して、レンタルサーバーやECサイトのシステムを提供する会社に新卒で入社して、ウェブのデザイナーとして経験を積んできました。さらにその前は、神奈川県の中高一貫の男子校を2008年に卒業して、美術大学に入学して映像を勉強しながら、Twitterで会ったこともない人たちと交流したり、趣味でウェブサイトを制作したりしていました。そうやって、タイムラインをどんどん遡っていくと、2003年、中学2年生の夏休みに、HTMLを書いたことに辿り着きます。

実家には、奥行きの深いブラウン管のディスプレイとWindows 95のパソコンがあって、初めてインターネットに接続したのは小学6年生ぐらいの頃だったと思うんですけど、ダイヤルアップ回線で、従量課金だし、使ってるあいだは電話が使えないしということで、いわゆるテレホタイムというか、夜11時を過ぎてちょっとだけ使わせてもらうという感じだったんですけど。それで、中学2年生のときにインターネットの回線がADSLになって、定額で使い放題、通信速度も上がって、1枚の画像もガッガッて上からちょっとずつ読み込まれていたのが瞬時に表示されるようになって、あとパソコンもブラウン管からWindows XPのノートパソコンになって、それでもう、ずっと見るようになっちゃって。

地元の2つ隣の町にTSUTAYAがあって、スーパーカーとかナンバーガールとかのCDを借りて、MDコンポでダビングして、AIWAの玉虫色のウォークマンで聴きながら学校に通っていて。その町に本屋もあって、なんか表紙に『できるホームページ』って大きく書いてある本を買ってきて、それを見ながらWindows XPにプリインストールされてるメモ帳ってアプリケーションを使って、シンタックスハイライトとかもない、素朴な白地に黒い文字で、1文字ずつHTMLを書いたという思い出があって。最初はHTMLを書くだけで必死だったんですけど、だんだん色をつけたり、動かしたり、こだわりたくなっちゃって、それで『できるホームページ』はもう卒業ってことで、また本屋でCSSとかJavaScriptを解説してる『ホームページ辞典』っていう本を買ってきた気がする。

そうやって初めてウェブサイトを作って、当時はYahoo!にジオシティーズってサービスがあって、そこにFTPでアップロードしたんですよね。ジオシティーズってご存じですか。いわゆるレンタルサーバーなんですけど、無料で、たしか20MBぐらい使えて。おもしろかったのが、ホームページを公開する住所を選ぶみたいな感じで、架空の「通り」の名前と、番地を選べるんです。「通り」のページに行くと、ホームページが番地の番号でずらっと並んでるんですよね。ユーザーが退会したら、居抜きで同じ番地を別のユーザーが使える仕様だったような。だから、本当の町のように、お隣さんみたいな概念があったんですよねWayback Machineの2004年のジオシティーズのアーカイブ)。今でも当時のウェブサイトのURLを覚えていて、僕はBookend-Shikibu通りの、6946番地でした。そういえば、僕のパソコンのパスワードは、ジオシティーズのFTPのパスワードですね。毎日何回も打ってる文字列を、中学生からずっとタイピングしてるんだなと、いま思い出しちゃいました。

ちょっと懐かしくて話が脱線しちゃったんですけど、初めてHTMLを書いて感動したのは、title要素に書いた文字列が、Internet Explorer 6のタイトルバーに表示されたことのような気がしてます。だらだらネットサーフィンして、ただ見るだけだった受け手の自分が、ウェブってこうやってできてるんだ、作れるんだと知って、作り手に転換した瞬間というか。例えば、花屋さんでお花を買って家に飾ったりとかすると、そのあとは道を歩いているだけで、今まで見えてなかった路上の草花が目に飛び込んでくる感じというか。この世のすべてのものに名前があるんだって気づいたりするじゃないですか。そういうふうに、HTMLは、Read権限しかなかった世界に、Write権限もあるんだと教えてくれた。思い返せば、今ではソフトウェアデザイナーと名乗るような自分が、初めてソフトウェアを開発した、その入口がHTMLだったのかなあって。だから、僕にとって、中学2年生の夏休みに、HTMLを書いたのは本当に特別な体験だったんです。

いよいよ明日はHTML Day 2026今夜はそれに先立つプレイベントであるHTML Night in Tokyoということで、こんな僕の個人的な体験をお話ししても受け止めてもらえると思って、臆さず話してますが。せっかく登壇しませんかとお声がけいただいた機会なので、あのとき、23年前の特別な夏の気持ちに立ち返って、もういちどHTMLを書いてみようと思います。

どういうことかというと、まず、地元の2つ隣の町の本屋で買った『できるホームページ』と『ホームページ辞典』という本を、2026年のいま、メルカリで探してみたんですけど、なんと売ってました。それで、買って、持ってきました。

あと、これ僕が使ってる、OSがWindows 11のノートパソコンのSurface Laptop Go 3ですけど、仮想環境に、かつてmodern.IEで配布されていたWindows XPとInternet Explorer 6が入ってます。modern.IEというのは、2013年にMicrosoftが公開したウェブ開発者向けの取り組みで、当時はInternet Explorerのバージョンごとに表示の違いが大きく、開発者はそれぞれの環境を用意して確認する必要があったんです。そこでMicrosoftが、各バージョンのInternet Explorerが入ったWindowsの仮想マシンのイメージを無償で配布していて、その当時にダウンロードしたイメージを持っていたので、VirtualBoxにインポートして起動しました。この仮想マシンのイメージの配布は現在は終了していて、検証を目的にした限定的なライセンスではあるのですが、今回はネットワークの接続を切ったうえで、自作のHTMLの表示を確認する用途で使用させていただきます。

これで当時の環境が揃ったので、それでは今から、『できるホームページ』を見ながら、メモ帳でHTMLを書きます。

<html>
<head>
  <meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=Shift_JIS">
  <title>HTML</title>
</head>
<body>
  <h1>HTML</h1>
  <p>現実が想像を追い越していく。空に広がる星たちが、あるいは河原の石たちが、それぞれIPアドレスを持っている。ゆっくり昇る太陽の光が、オレンジ色の雲の隙間から差し込んで、草も、花も、1本ずつ影を落とす。あらゆるものが、立体的に立ち上がる。ケチャップとマヨネーズを混ぜた、オーロラソースのような色をしたオリジン弁当の椅子に座って、レシートに印刷された番号が呼ばれるのを待っている。いつか作ったホームページのURLの、末尾の4桁の数字を覚えている。かけがえのない、どうでもいい奇跡が積み重なって、<a href="#">テキストリンク</a>は青く光る。</p>
  <p>ぜんぜん別の場所にあるものが、重なって見える。いま起こっていることが、いつか体験したことのように感じられる。速すぎてよく見えないけど、出会った瞬間に別れている。それを繰り返している。からだの輪郭が高速に振動して、中と外が入れ替わっている。なんども死んでは、生まれ変わっている。それはそれとして、わたしたちはきょうも暮らしていかないとならないから、便宜上こんなことをHTMLと呼んでやりすごしているわけなのだが。</p>
</body>
</html>

HTML Night in Tokyo朗読するために書いた詩。